京生き物ミュージアム

京都にゆかりのある動植物

カルガモ 葉っぱ

 1200 年余の歴史を持つ本市には,下鴨神社等の世界文化遺産をはじめ,数多くの文化財,社寺などの歴史的・文化的資産があります。これらの社寺などに見られる長い年月が育んだ林や庭園などの緑地は,生物多様性の保全上,非常に重要ということが分かっています。
 これまで市民の皆様が支え,伝えてきた祭りや伝統行事,あるいは華道,茶道や京友禅などの京都を代表する文化や工芸も,本市の生物多様性の恵みを利用し発展してきました。さらに,京野菜,日本酒や豆腐なども,市民生活に関わりの深い生物多様性の恵みの代表的な例と言えます。
 「庭園・社寺林」「祭事・伝統行事」や「暮らし」など,京都にゆかりのある動植物を紹介します。

・庭園・社寺林
・祭事・伝統行事
・暮らし

庭園・社寺林

庭園

 豊富な地下水に恵まれ,多くの湧き水が湧出する立地条件であったことや,多様な石材や木材を入手できる自然環境に取り囲まれていたことなどから,京都は日本の庭園文化を育むうえで重要な役割を果たしてきました。京都の自然を取り込む庭園様式は,自然風景をまねた庭石や植栽の配置だけでなく,三山を背景とし,庭園に周辺の自然風景そのものを組み入れる借景という技法をも生み出しました。また,京都特有の自然条件に適応したコケ類,シダ類,魚類や鳥類などの生息・生育環境として貴重な場所になっています。

庭園・社寺林

清風荘庭園

庭園・社寺林

無鄰菴庭園

庭園・社寺林

二条城二之丸庭園

社寺林

 社寺の背後の森林(いわゆる鎮守の森) は,現在ではシイやカシが中心の鬱蒼とした常緑広葉樹林が増えてきています。しかし,その歴史をたどると,この傾向が見られるのは,明治時代以降のおよそ140年間に過ぎず(八坂神社写真比較),平安時代から江戸時代の1,000年以上にも及ぶ長い間,マツやスギなど(針葉樹)の高木を中心に,ウメやサクラなど(落葉広葉樹)を交えた,現在よりもはるかに明るい林床をもつ林であったことが分かってきています。
 例えば,アカマツは土壌が薄く痩せた土地で主に生育し,乾燥にも強い樹種です。マツの落葉落枝は重要な燃料であったほか,維持管理されたマツ林で採取されるマツタケは,貴族たちの贈答用としても用いられ,京都の生物多様性を象徴する秋の味覚でした。かつて京都三山をはじめ広い地域で見られた多くのアカマツ林は,人間によって何度も繰り返された森林伐採とその後の二次林の再生の結果として生まれ,維持されてきた森林と考えることができます。

明治初期の八坂神社

平成18年の八坂神社

祭事・伝統行事

祇園祭

 京都三大祭りの一つである祇園祭では,厄除けとして授与されるちまきの原材料としてチマキザサが使われています。ほかのササと違い表面に毛がないのが特徴であり,ちまきや食品を包んだり乗せたりするために用いられています。
 チマキザサは,本州,四国,九州の山地の林に生育する大型のササであり,本市域では花脊や八丁平で見ることができます。しかしながら,近年,増えすぎたニホンジカの食害により若芽が十分に育っておらず,祇園祭を支えるチマキザサは本市で絶滅の危機に瀕しています。
 また,ヒオウギは,古来より厄除けの植物とされており,祇園祭の期間中,京都では民家の床の間や玄関へ飾る習慣があります。

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ちまき

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チマキザサ

展示されたヒオウギ

葵祭(賀茂祭)

 祇園祭と同じく,京都三大祭りの一つである葵祭では,その名のとおり,行列の装束や牛車などにフタバアオイが飾られています。これは,フタバアオイが神と人を結ぶ神聖な植物として,上賀茂神社・下鴨神社の御神紋に使われているからです。フタバアオイは,東北から九州までの里山に生育する背の低い多年草で,ハート形の葉を2枚ずつ付けることから,このように名付けられています。春には,小さな紫色の花を咲かせます。
 葵祭では毎年10,000 枚程度のフタバアオイの葉が使用されています。かつては身近な林で比較的簡単に採集できたため,境内に自生するものだけで賄えたようですが,近年では生育数の減少により,祭りに必要な枚数が集まらなくなっている状況です。

葵祭

フタバアオイ

八坂神社の白朮(おけら)詣り

 おけら詣りは,除夜の鐘を聞いた後,八坂神社へ詣でて「おけら火」を頂き,その火で雑煮を作って無病息災を願うという京都ならではの風習です。ここで使用されるオケラ(白朮)は,本州から九州までの草原や雑木林,林道のように陽の当たる乾燥した場所に生育するキク科の薬草であり,昔から厄除けとして用いられてきました。
 ところが,間伐など人の手が入らなくなったことによって林内が暗くなったことや,土地の造成等で生育地がなくなったことから急激に減少しています。薬用としての乱獲も,減少の要因の一つと言われています。

白朮おけら詣り

オケラ

五山送り火

 五山送り火の燃料として使われるのはアカマツです。アカマツは,北海道から九州までの尾根などの乾燥した明るい土地に生育します。常に手入れされたアカマツ林は,マツタケ山として利用されてきたほか,東山界隈の庭園が東山のアカマツ林を借景としてきたなど,送り火以外でも京都の文化と深く結びついています。
 現在は,山に人の手が入らなくなったことから,シイなどの常緑広葉樹に置き換わり,アカマツが減ってきていることに加えて,マツノザイセンチュウによる枯死(マツ枯れ)も目立ち,送り火の材料となるアカマツが市域だけでは賄いきれなくなってきています。

五山送り火


マツ枯れ

鞍馬の火祭

 鞍馬の火祭は,左京区鞍馬にある由岐神社の例祭の1 つです。集落のあちこちで焚かれたかがり火の中を,氏子が大松明を持って練り歩くのが特徴の行事です。この松明の原材料がコバノミツバツツジで,アカマツ林などの明るく乾いた林に生育していますが,間伐をしなくなったことから林内が暗くなり,コバノミツバツツジの生育が困難な環境に変化してきたために,個体数が急速に減少しています。

鞍馬の火祭

コバノミツバツツジ

暮らし

京野菜

 京野菜は,京都が地理的に海から遠く魚介類の入手が難しいことや,「生臭もの」を嫌う多くの寺院を中心に精進料理が発達したことから,その材料として地元で育成された味わい深い野菜のことを言います。これらの野菜は,京料理の素材としても使われ,親しまれてきました。
 賀茂なすは,多くの水を必要とするので,水が豊富な地区が産地となります。現在は,本市の北部,上賀茂を中心にわずかながら栽培されていますが,かつてはより南に位置する左京区吉田・田中の周辺が主な産地であったとされています。

賀茂なす

 聖護院大根は,現在の左京区の聖護院地区を中心に栽培された京都特産野菜の一つです。品種改良を重ねることにより作り出された丸型の大根は,土壌の浅い京都の土によく適したため,聖護院一帯に広まり,その後京都各地で栽培されるようになったと言われています。

聖護院だいこん

 すぐき菜は,北区上賀茂で昔から栽培されてきたかぶの一つです。漬物にした「すぐき(漬)」としても有名です。この種の栽培地域は上賀茂と深泥池地区のすぐきが優れているとされています。

すぐき(漬)

 また,現在も京都の伝統の味として親しまれている大原のしば漬けや鞍馬の木の芽煮きのめだきも,それぞれの土地の風土をいかした保存食が受け継がれている好例と言えます。大原は,南東を比叡山系,北西を比良山系に囲まれた盆地で,昼夜の寒暖の差が大きいため,朝には「 小野霞おのがすみ」と呼ばれる霞によって保湿された大地が良質な紫蘇しそを育み,これを原料としてしば漬けは作られています。
 木の芽煮は山椒のつくだ煮のことです。かつて鞍馬では,交通網が少なく,冬は雪が深く外に出ることができなかったため,家庭の保存食として作られていました。現在は,鞍馬伝統の味として名産品になっています。


大原のしば漬け


鞍馬の木の芽煮きのめだき

淡水魚

 野菜だけでなく,淡水魚も食材として長く利用してきた歴史があります。代表的な例としては,田んぼのため池に生息するモロコ類,河川に生息するアユなどがあります。これらの食材は,本市に限らず,里山を中心とした生活を営んできた私たち日本人が古くから慣れ親しんできたものと言えます。

モロコ

アユ

衣服・香料・生薬

 フジバカマは,キク科の多年草で秋の七草の一 つでもあり,乾燥させ,香料としても用いられます。花は藤色がかった白で,河川や水田付近の明るい水辺に咲く山野草として親しまれてきましたが,現在,河川改修などによる環境の変化で原種の自生地が激減し,絶滅が心配されています(街中で見掛けるフジバカマの多くは園芸種です)。

フジバカマ