京生き物ミュージアム

京都市内の貴重な自然環境

カルガモ 葉っぱ

 京都市は,大阪平野に連なる盆地が南部に広がり,市域面積の約75%を占める森林や鴨川,桂川,宇治川をはじめとるする河川が織りなす豊かな自然に恵まれており,こうした自然環境が,京都市の生物多様性を支える礎となっています。
 京都市の自然環境を「森林」,「農地」,「市街地」,「河川・池沼」の四つに分けて紹介します。

1 森林

 森林は,京都盆地を取り囲む三山やその北部に広がり,市域の約75%(約4分の3)を占めています。こうした森林は多くの生きもの(動物・植物)のすみかとして重要であり,大都市でありながら,ツキノワグマ,ニホンジカ,イノシシやニホンザルなどが生息しています。

1森林
<特徴的な場所>
①東山

 東山三十六峰の一つ,善気山ぜんきさん には法然院の森が広がっています。麓では照葉樹が優占し,尾根にかけて様々な木々が繁茂しています。

<見られる生きもの>

  • ニホンジカ
  • ホンドギツネ
  • イノシシ
  • ムササビ
  • モリアオガエル
  • ゲンジボタル など

ムササビ

モリアオガエル

②桂川の右岸一帯

 京都盆地に入るまでの,嵐山を含む西京区の桂川右岸沿いの山地には,まとまった面積の森林が広がり,山地が桂川流域まで迫っています。

<見られる生きもの>

  • ニホンジカ
  • イノシシ
  • ニホンザル
  • ホンドギツネ など

桂川右岸の山地

③左京区北部山間地域の森林

 京都市の北部地域にある花脊の一帯は,京都市の中でも雪が多く,森林に囲まれており,特有の生きものを見ることができます。

<見られる生きもの>

  • 花脊の天然伏条台杉
  • 花脊の三本スギ
  • ヒサマツミドリシジミ など

花脊の天然伏条台杉

④比叡山

 京都市の北東部と大津市西部にまたがり,古くより信仰対象とされ,その全域が天台宗総本山の延暦寺の境内となっています。かつては伐採が定期的に行われ,草地が広く見られましたが,今はうっそうとした樹林が中心となっています。

<見られる生きもの>

  • ブナやモミの自然林
  • 昆虫類
  • 鳥類(国の天然記念物「比叡山鳥類繁殖地」に指定) など

比叡山

2 農地

 平安京の時代から長く栄えてきた京都は,海から遠く離れた立地のため海産物の運搬が難しく,大都市の食生活を支えていくためには野菜づくりが重要でした。特に京都には,全国各地や中国大陸から,朝廷への献上品として,優れた生産技術や野菜の品種が集まり,また,多くの社寺において精進料理が発達したことも影響し,野菜が伝統的に栽培されてきました。

2 農地
<特徴的な場所>
①嵯峨野

 太秦から小倉山までの一帯は嵯峨野と呼ばれ,寺院や山荘が数多く残ることから京都観光の名所となっています。寺院の境内や周辺に残る田園が連なることで,植物や昆虫などに多くの生息・生育環境を提供しています。

<見られる生きもの>

  • ヒガンバナやハギ類
  • コオロギ類やスズムシ など

嵯峨野の田園風景

②大原

 山に囲まれた盆地に広がる農耕地で,盆地の中心を高野川が流れています。古くから本市に野菜等を供給する産地として有名です。草地や農耕地周辺に生息・生育する動植物だけでなく,周りを樹林に囲まれていること,また放棄水田もあることから,多くの生きものが生息・生育しています。

<見られる生きもの>

  • イノシシ
  • ニホンジカ
  • 湿性の植物(セリ,イ,ガマ等)
  • ダイサギ等の鳥類
  • ミヤマアカネ など

ミヤマアカネ

大原の農耕地

③巨椋池干拓地

 かつては伏見区,宇治市,久御山町にまたがり,1933年に干拓が始まる以前は東西4 ㎞,南北3㎞,水域面積は約800haにも及ぶ広大な池でした。多様な動植物の生息・生育地として,豊かな生態系を誇っていましたが,現在は干拓され,農地として利用されています。
 水田が多いものの,乾田化されたため,冬季は乾燥した状態となります。そのため,湿性の種の生息・生育は,湿田ほど多くはないものの,この広大な農地は,草地性の鳥類の生息環境となっています。
 また,京都市農村環境計画に基づき,京都府は承水路(排水路)の整備において,水田との連続性回復への配慮を行い,淡水魚の繁殖等が見られています。

<見られる生きもの>

  • フラスコモ
  • シャジクモ
  • コミミズク
  • チュウヒ
  • ナマズ
  • ドジョウ
  • フナ
  • ゼゼラ など

コミミズク

チュウヒ

④住宅地に残る農耕地(岩倉,山科等)

 かつては広大な農耕地が広がっていた岩倉,山科等の地域では,過去30 年間で,宅地化が進み,現在では農耕地がパッチ状に残るのみとなっています。農耕地としての面積は小さいものの,宅地の中に残された,草地や湿地を好む生きものの貴重な生息環境となっています。

岩倉の田園環境

3 市街地

 古くから残る社寺林や庭園など,人が管理することで昔から変わらない姿を留めている場所には,都市公園等ではほとんど見ることができなくなったコケ・シダ類が生育しています。市街地の中に散りばめられたように存在している社寺林や庭園は,こうした生きもののすみかとして欠かせない場所となっており,本市ならではの自然環境を形づくる重要な要素となっています。
 また,広い緑地を有する大きな公園のみならず,市内に点在する緑地(小さな公園や街路樹,個人の庭など)も生きものの生活域として重要な場所として機能しています。

3 市街地
<特徴的な場所>
①梅小路公園

 市街地の中心にありながら,池を中心とした日本庭園や芝生広場があります。日本庭園の隣には樹木が植えられ,都市の中の緑地が形成されています。
 今では野鳥や昆虫が運んだ種子から新しい命が育まれ,森として成長が進んでいます。市街地にあって,水域と広がりを持った緑を提供することで,生きものの貴重な生息・生育場所になっています。

いのちの森

②吉田山(神楽岡)

 京都大学の東にあるなだらかな丘ですが,周りは市街地となっており,街中に残る貴重な緑地として,小学生の自然観察をはじめ,市民の憩いの場となっています。江戸時代より里山として薪拾いなど人々に利用されてきましたが,近年ではこうした里山利用が減少し,またナラ枯れなども進行し,林の荒廃が進んでいます。
 現在は,周辺住民を中心に,吉田神社,京都大学などが参画し,林の再生を目指す活動が始まっています。

吉田山

③宝が池公園

 京都三山の一角をなす小高い山に囲まれ,五山の送り火の一つ「妙法」が南面にあります。古くから,薪や炭をつくる里山として,人々の暮らしと深く関わってきた自然を見ることができます。
 現在は,ナラ枯れやニホンジカの食害のほか,外来種であるナンキンハゼの増加など様々な課題に,ボランティア,地域住民や京都市等が共に取り組んでいます。

<見られる生きもの>

  • カラコギカエデ
  • ミヤコツツジ(モチツツジとヤマツツジの自然雑種) など

宝が池

④京都御苑

 京都御苑は,南北は丸太町通から今出川通まで,東西は寺町通から烏丸通まで広がる,市街地における大規模な緑地です。苑内には約5万本の樹木があり,ムクノキやエノキなど,古代山城原野の面影をとどめています。
 また,自然観察や学術研究も盛んで,多くの植物,キノコ類,鳥類や昆虫が確認されています。市民を対象にした自然観察会「自然教室」は,昭和59(1984)年から30 年以上続けられています。これらの自然を楽しむための観察場所が,苑内には整備されています(トンボ池,バッタヶ原,コオロギの里,母と子の森,九條池など)。

<見られる生きもの>

  • アオバズク
  • カワセミ など

京都御苑

九條池

4 河川・池沼

 市内には三川(鴨川,桂川,宇治川)のほか,発電や水道水として利用される琵琶湖疏水など,身近に流れる水が豊富にあります。これらの河川・池沼は,魚や水生昆虫など水の中で生息する生きものや,それらを食べる鳥たちなどにすみかを提供しています。
 京都盆地が,昔は湖であった名残は深泥池,神泉苑といった湿地や池に見ることができます。巨椋池もその一つでしたが,いまでは干拓され農地として利用されています。これらの場所では,水辺をすみかとする生きものを多く見ることができます。特に深泥池は国の天然記念物に指定されるなど,本市における重要な自然環境の一つといえます。

4 河川・池沼
<特徴的な場所>
①鴨川

 本市の市街地を南北に貫流し,京都を代表する風景の一つといえます。上流部には,豊かな自然が残されており,一部中国産との混在が問題となっていますが,オオサンショウウオが生息しています。中下流部についても,大都市の中にあって豊かな自然環境であり,特に河原や中洲では,多くの野鳥を目にすることができます。

<見られる生きもの>

  • コサギ
  • アオサギ
  • カワセミ
  • イカルチドリ
  • ツバメ
  • コシアカツバメ
  • ユリカモメ
  • カモ類 など

    鴨川上流の賀茂川

    イカルチドリ

    ②桂川

     左京区広河原と,南丹市美山町佐々里を源とし,京都盆地南西部を貫流し淀川に注ぎます。京都盆地に入るまでは,山地の迫る区間が多く,嵐山から下流では市街地が広がります。
     上流には豊かな自然が残されており,オオサンショウウオをはじめとする貴重な生きものが見られます。また,桂川で採掘された土砂からは,かつて巨椋池で生育していたオグラコウホネの埋土種子が見つかっています。

    <見られる生きもの>

    • オオタカ
    • オグラコウホネ
    • タコノアシ等の湿地性の植物
    • カヤネズミ など

    桂川

    オグラコウホネ

    ③深泥池

     京都盆地の北端,丘陵地の谷合いにある面積約9haの池ですが,水生の動植物が豊富で,学術的にも価値が高く,全国で唯一,生物群集が天然記念物に指定されているほか,世界的にも珍しいハリミズゴケとオオミズゴケが形成する浮島湿原(ミズゴケ高層湿原)があります。
     日本の財産と言える深泥池ですが,近年は道路による雨水供給の遮断や,生活排水の流入による富栄養化等により,水生植物の減少が進むとともに,外来種による在来種への影響も大きくなっており,継続した保全対策が必要です。

    <見られる生きもの>

    • ホロムイソウ
    • ミツガシワ
    • ヒドリガモ
    • ルリビタキ
    • フナ
    • スジエビ など

    深泥池

    ミツガシワ

    ④宇治川

     宇治川は,淀川の京都府域での呼び名です。宇治川は,京都盆地へ流入する世界遺産の平等院付近から木津川,桂川との合流点の上流側にかけて広大な遊水地を形成しています(旧巨椋池)。

    <見られる生きもの>

    • ヨシ,オギ(大群落)
    • ツバメ(関西最大規模の集団ねぐら)
    • オオヨシキリ(繁殖地) など

    宇治川

    ⑤平安神宮神苑の池

     平安神宮の神苑の池は,琵琶湖疏水を取り入れた池です。疏水を伝って琵琶湖からタナゴ類がこの池に入り,水質対策として取水口に取り付けたフィルターが外来種の侵入を防いだため,平安神宮神苑の池では,現在もタナゴ類を含め多くの魚が生息しています。

    <見られる生きもの>

    • イチモンジタナゴ など

    平安神宮全景

    ⑥西芳寺川

     桂川の支流で,嵐山の北西を水源とする西芳寺川は,地元では「谷川」と呼ばれ,サワガニや豊富な魚類,水生昆虫が生息する清流です。

    <見られる生きもの>

    • サワガニ
    • オオトゲエラカゲロウ
    • ゲンジボタル など

    ゲンジボタル

    ⑦琵琶湖疏水沿い

     琵琶湖疏水沿いに植えられた桜の並木では,キマダラルリツバメという珍しいチョウが見られます。古木の樹皮下に生息するハリブトシリアゲアリに育ててもらうという生活史を持っています。そのような古木があり,かつハリブトシリアゲアリが生息している場所でしか見られないこのチョウが街中で飛翔するのは,非常に珍しい光景です。
     また,銀閣寺地域の疏水分線沿いの並木は,都市域でミドリシジミの飛翔が見られる極めて貴重な場所といえます。このほか,疏水の水の流れや土手の環境が昔から変わらず保全されているため,京都市の天然記念物であるゲンジボタルなどの昆虫たちも多く見られます。

    <見られる生きもの>

    • キマダラルリツバメ
    • ハリブトシリアゲアリ
    • ミドリシジミ
    • ゲンジボタル など

    キマダラルリツバメ

    哲学の道周辺