京生き物ミュージアム

第1号認定「京都水族館」

2014年10月23日
京都水族館


 京都水族館では,「水と共につながる,いのち。」をコンセプトにしており,源流から海に至るつながりと,多くのいのちが共生する生態系を再現することで,京都市の生物多様性に関する情報発信を行っています。

 市内を貫流する桂川を中心に,京都の貴重植物とその生息環境を再現するにあたり,チマキザサ及びフタバアオイを取り入れた展示を行い,京都市外から来られる多数の来館者に京都の祭りを支えてきた植物のことを知っていただきたいと考えています。

 まずは,専門家の指導を受け,京都ゆかりの地域固有種を入手し,種に合わせた最適な生息環境を再現します。また,生育後の資源利用方法についても検討を行います。

取組の開始

 京都水族館では,チマキザサ及びフタバアオイを取り入れた展示を希望されていたことから,京都市から専門家を京都水族館に派遣しました。

 今回は,植物を新たに植えますが,植物に限らず生き物は,それぞれ棲むことができる環境が異なります。生き物にとって棲みやすい環境でなければ,せっかく導入しても,枯れてしまう可能性が高くなります。そのため,チマキザサフタバアオイにとって生息できる環境があるかどうか,専門家に現地を視察いただき,そのうえで技術指導をお願いしました。

 まずは,祇園祭の粽(ちまき)に欠かせないチマキザサの移植に向けて,京都大学大学院農学研究科教授の柴田昌三先生に京都水族館を訪問いただきました。植栽予定地を確認のうえ,技術的なアドバイスをしていただきました。

柴田教授から,チマキザサの危機的な現状などについて,お話しがありました。
植栽予定の「京の里山ゾーン」内で,チマキザサに適した生息環境を探しています。

 続いて,葵祭で使われるフタバアオイです。フタバアオイの技術指導については,公益財団法人京都市都市緑化協会にお願いし,専門家を派遣いただきました。同協会理事長の森本幸裕様にも,京都水族館を訪問いただき,植栽予定地の確認と技術アドバイスをいただきました。

京都水族館から,チマキザサの展示計画などについて,説明がありました。
フタバアオイは直射日光に弱いため,その対策について指導を受けています。

迎え入れの準備

 昔から祇園祭の粽(ちまき)の供給源であった左京区花脊別所町に自生するチマキザサ数株を譲り受けることになりました。伝統的に祇園祭で使用され,京都の遺伝子を持つ確かなチマキザサです。誰でも簡単に譲り受けることができる訳ではなく,今回は,チマキザサ再生委員会を通じて,地元の方々の御協力のもと,実現されたものです。「京都」と名の付く以上,生物多様性の観点からも妥協したくない,由緒あるチマキザサを育成・保全・展示をしたいとの,京都水族館の熱意がありました。
*チマキザサ再生委員会(https://www.city.kyoto.lg.jp/sakyo/page/0000159656.html
 チマキザサ保全の取組を,広域連携して総合的に推進していくため,花脊・別所学区・明倫学区・京都大学の研究者有志・元京都市未来まちづくり100人委員会「山紫水明の京都チーム」・京都市(左京区役所等)により構成する委員会です。
(参考:チマキザサ再生プロジェクトfacebook https://www.facebook.com/chimakizasa

花背のチマキザサです。(撮影:平成26年12月)
ここでも,シカ除けのネット対策は必須です。京都大学の研究者が,地面に格子状のネットを設置し,チマキザサの生息数をモニタリングしています。

 フタバアオイは,山地のやや湿った明るい林床に這うように育ち,つい100年前には,京都の至る所にフタバアオイが群生していました。しかし,今では,葵祭で必要なフタバアオイを確保することも難しくなっているのが現状です。そうした中,上賀茂神社では,神社内の「葵の畑」に,京都の遺伝子を持つフタバアオイを育成・保全してきました。今回,公益財団法人京都市都市緑化協会を通じて,NPO法人葵プロジェクトから,このフタバアオイを提供いただくことになりました。

チマキザサとフタバアオイの導入

 土壌改良や植栽で半日陰を作るなど,京都水族館の受け入れ準備が整い,いよいよ京の里山ゾーンにチマキザサフタバアオイを植える日を迎えました。この日は,京都大学大学院農学研究科の東口涼様と公益財団法人京都市都市緑化協会の職員が立ち会い,植え付けの指示を行いました。さらに,フタバアオイの提供に協力いただいたNPO法人葵プロジェクト事務局の皆様にもお手伝いいただきました。

フタバアオイの受渡し。(葵プロジェクト事務局長から京都水族館館長へ)
フタバアオイの植え込み作業
フタバアオイの植え込み完成です。フタバアオイは,冬の間,地上部分は枯れる(冬の間に土の中で地下茎は成長しています)ので,ほとんど何もないように見えますが,春にはきっと,元気に芽吹くことが期待されます。
チマキザサの受渡し。(京都大学東口様から京都水族館館長へ)
チマキザサの植え込み作業
チマキザサの植え込み完成です。

生息域外保全について

 「生息域外保全」とは,生物の個体群を,それらが生息する自然の環境の外で保全することを言います。
野生の生き物の絶滅を回避するためには,その種の自然の生息域内において保存されることが原則であるとされています。しかしながら,チマキザサのように本来の自生地がシカの食害により危機的な状況にある場合,緊急避難的な措置として,シカの食害のおそれがない土地(例えば,市街地(京都水族館))で育成保全を行うことが必要になります。
 生息域外保全は,生息域内での存続が困難な状況に追い込まれた種を一時的に保存し,生息・生育状況の悪化した種を増殖して生息域内の個体群を増強することにつながれば,有効な手段と考えられます。
 あくまでも,第一に生息域内保全,その補完的な役割として生息域外保全があるということを御理解ください。

 今回,専門家として派遣した京都大学大学院農学研究科の東口様によると,チマキザサにとっては,自生地である花脊の地で生育していくことが最も増殖しやすい条件であり,生息域外保全先では,枯れてしまうことも多いそうです。チマキザサという種の存続が最優先ですので,誰にでも花脊のチマキザサを譲り渡すことができる訳ではありません。チマキザサの育成に興味をお持ちの方におかれましては,この点,どうぞご承知おきください。

※チマキザサについて,詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。