京生き物ミュージアム

チマキザサの再生

★令和4年度の活動★
これまでの経過、取組など
①チマキザサと京文化の関わり
②チマキザサの現状と課題
③チマキザサ再生に向けた取組

★令和4年度の活動★

チマキザサの初出荷

 令和4(2022)年12月、防鹿柵の中で再生したチマキザサを収穫し、乾燥加工した「花脊別所産チマキザサ」を老舗菓子店等へ初出荷しました。
 出荷量は約5万枚。これまでの長年にわたる再生活動の大きな成果です。

 引き続き、チマキザサの移植や防鹿柵内の環境整備等を行いながら、 花脊別所産チマキザサの更なる再生及び収穫高の向上を図っていきます。

花脊別所産チマキザサ

チマキザサの収穫

 活動団体やボランティアの方々にも御協力いただき、防鹿柵の中で再生したチマキザサを収穫しました。
 商品とするために、十分な大きさがあり、傷がないものを見分けながら、1枚ずつ手作業で採取する必要があります。
 参加者からは、「良い経験となった」や「チマキザサの現場を見られて良かった」等の御意見をいただきました。

防鹿柵内で再生したチマキザサ

1枚ずつ手作業で採取

採取したチマキザサを束ねた様子

チマキザサの移植

 チマキザサの更なる再生に向けて、活動団体やボランティアの方々にも御協力いただき、防鹿柵を設置した場所のうち、再生が進んでいない場所にチマキザサを移植しました。
 参加者からは、「色々と知ることができて楽しかった」や「様々な取組によってチマキザサが守られていることを学ぶことができた」等の御意見をいただきました。
 移植したチマキザサが収穫できるまでに成長するには時間がかかります。地道ですが、とても重要な作業ですので、これからも継続していきます。

移植場所(作業前)

移植の様子(穴を掘る)

移植の様子(穴にチマキザサを植える)

移植場所(作業後)

 令和3年度の活動はこちら

これまでの経過、取組など

①チマキザサと京文化の関わり

チマキザサとは

 チマキザサは、京都市北部の鞍馬山から花脊別所町、大原百井町周辺の山間部に自生する大型の笹で、正式種名をチュウゴクザサ (Sasa veitchii var. hirsuta)と言います。チマキザサは、およそ60年に一度、一斉に花が咲き一斉に枯れるという不思議な生態を持っています。

チマキザサ群落の様子

チマキザサの一斉開花 【写真提供:柴田昌三】

チマキザサと京文化との関わり

 京都市北部山間地域に自生するチマキザサは、京都の三大祭の一つである祇園祭の厄除け粽(厄病・災難除けのお守り)のほか、京料理や京菓子などに利用されてきました。その需要は、京都市内だけで年間約1,000万枚にのぼるとされ、長い歴史と四季折々の豊かな自然の中で洗練されてきた京都の文化を支えてきました。この地域のチマキザサは香りが良く、また葉の裏に毛がないために加工がしやすいという理由から好んで用いられており、17世紀末に書かれた地誌「雍州府志(ようしゅうふし)」にも、「他産不堪用(他産地のものは品質面から使用できない)」との記述があるほどです。チマキザサは洛中の文化を支えるだけでなく、京都市北部山間地域の暮らしを支える重要な生業の一つになっていました。
 また、花脊別所町周辺に伝わるチマキザサの採集と加工の営みは、農業や炭焼と同じように四季の暮らしの中に組み込まれ、現金収入の一つであるとともに、地域の里山の景観をつくっていました。

祇園祭

厄除け粽【写真提供:貫名涼】

麩饅頭【写真提供:貫名涼】

水仙粽(川端道喜)【写真提供:貫名涼】

粽【写真提供:貫名涼】

炭焼小屋とチマキザサ 【写真提供:藤井靖子】

稲干しとチマキザサ 【写真提供:藤井靖子】

②チマキザサの現状と課題

チマキザサの減少

 京都市北部では、平成16年から19年にかけて、チマキザサが一斉に開花し群落のほぼ全てが枯れてしまいました。追い打ちをかけるように、近年増加したニホンジカが新芽を食べ尽くしたため、自然環境下での再生は望めない状況となってしまいました。

開花前のチマキザサ群落 【写真提供:柴田昌三】

開花後に全て枯れたチマキザサ群落 【写真提供:柴田昌三】

シカによる被害 【写真提供:貫名涼】

担い手不足

 厄除け粽の材料となるチマキザサは、良質な葉の選定・採集・天日干し・加工など、長い歴史の中で脈々と受け継がれてきた伝統技術によって完成します。しかし、生産者の高齢化により、これら伝統技術の継承が途絶えつつあります。

チマキザサ乾燥の様子 【写真提供:藤井靖子】

50枚を束にしたチマキザサ

出荷されるチマキザサの葉

③チマキザサ再生に向けた取組

チマキザサ再生の取組
防鹿柵による保全・再生

 花脊別所町では、かつてチマキザサが自生していた場所にシカの侵入を防ぐ防鹿柵(ぼうろくさく)を設置し、チマキザサの保全・再生に取り組んできました。防鹿柵で囲まれたチマキザサは、人の胸の高さほどに成長しました。令和4年の夏には、厄除け粽の材料として収穫される見込みです。

  

防鹿柵

 ※チマキザサの再生状況は2分21秒まで

地域や企業による保全活動

 少なくなったチマキザサを増やすために、花脊別所町の小中学生が育成した苗を、京都市動物園や武田薬品工業(株)京都薬用植物園へ移植し、保全しています。

チマキザサを移植する様子(2018年10月)

【2022年9月撮影】移植され育ったチマキザサ (京都市動物園)

移植されたチマキザサの苗 (武田薬品工業(株)京都薬用植物園)

環境学習の取組

 花脊別所町の小中学生が、地域の伝統的な生業を学ぶため、チマキザサ苗の育成や移植、葉の加工に挑戦しました。

 Team Tell Hanase「花背地域の情報発信サイト(Hanase Nabi)」

 

技術継承の取組
担い手を増やすための取組

 生産者の方々とワークショップを開催し、チマキザサの加工体験などをしました。京都の文化と生物多様性から見たチマキザサの重要性について、地域の方からも「チマキザサがこんなに大事なものだと改めて知った。」といった声もありました。
 また、花脊別所町の生産者を中心に「花脊別所チマキザサグループ」が設立され、チマキザサの持続的利用に向けて活動しています。

ワークショップの様子

生産者が持つ技術の継承

 生産者の方々から、チマキザサの採集・加工技術を教えてもらいました。これらの様子は、生産者の技術を後世に残すために記録しました。

葉を採集【写真提供:貫名涼】

葉を束ねる【写真提供:貫名涼】

葉を乾燥【写真提供:貫名涼】

普及啓発の取組
小学校の交流

 チマキザサを生産する地域の花脊小中学校と、チマキザサを使う地域の高倉小学校との交流を行っています。
 チマキザサの消費者である町の子どもたちはその生態を知ることができ、また、生産者である山の子どもたちはその使い道を知ることにより、チマキザサの保全活動に興味を持ってもらうことができます。

交流会の様子

関係者への普及啓発

 祇園祭や京菓子、京料理に携わる方々を対象に、活動や事業に使われるチマキザサの産地の現状や再生の状況について、啓発を行っています。

市民の方々への普及啓発

 市民の方々にも、生物多様性セミナー等のイベント等を通じてチマキザサの再生に向けた取組を紹介しています。

セミナーの様子

市場拡大の取組
京都市内のチマキザサ需要の再確認

 チマキザサの現状や再生の展望についての説明会等を行ったところ、「昔はチマキザサを使っていた。再生したら是非とも使いたい。」との意見を聴くことができ、京都市内の京菓子業界の方々から根強い需要が健在であることが分かりました。

説明会の様子

チマキザサ再生に関する調査研究などの取組
再生に向けた調査研究

 平成25年に、地元住民や京都大学、京都市などの関係者がチマキザサ再生委員会を設立し、国や京都市の支援を得ながら、チマキザサ再生の調査研究や採集・加工技術の継承、普及啓発に取り組んできました。調査研究の成果は、今後の再生事業に活かされます。

 調査研究の成果

調査研究の様子

調査研究の成果(東口・柴田、 2017)

チマキザサ再生による生物多様性保全

 京都市が令和3年に策定した「京都市生物多様性プラン(2021-2030)」では、令和12年(2030年)までの4つの目標を掲げています。「チマキザサの再生」は、特に目標1「京都らしさを支える生物多様性の持続可能な利用を図る」の施策「文化を支える生物資源の持続可能な利用」及び目標2「生息・生育地と種の多様性を保全・回復する」の施策「里地里山の保全・回復」に大きく貢献する活動です。 また、関連する取組を一体的に進め、相乗効果を図る「推進プロジェクト」にある「恵み豊かな森づくりプロジェクト」の一つとして推進しています。

 京都市生物多様性保全プラン(2021-2030)

京都市生物多様性プラン(2021-2030)