京生き物ミュージアム

生物多様性の保全に資する活動について~絶滅危惧種再生プロジェクト等~

 平成28(2016)年8月1日
 京都市環境政策局適正処理施設部北部クリーンセンター

はじめに

 北部クリーンセンターでは,京都発の環境マネジメントシステムであるKESの登録事業者として,生物多様性のための活動を平成26年度から取り組み,ヒマワリ,アサガオ,菜の花などの育成による施設内緑化を進めてきました。

 一方,平成26年3月策定の京都市生物多様性プランにおいては,市民の生物多様性に関する認知度や絶滅危惧種を含む希少植物の生息場所の減少などが課題として取り上げられています。

 北部クリーンセンターでも,これらの課題に対応するため,活動の改善に取り組んでまいりましたので,その内容を紹介します。

北部クリーンセンター航空写真

 

改善した内容 ~生物多様性保全のための活動(平成27年度)~

環境テーマ広場としての公園広場の活用

 北部クリーンセンター敷地の公園広場やトンネル入口付近にひまわり植栽エリアを拡大し,玄関口のイメージ向上を目指したところ,地元住民との交流が生まれました。

 地元小学校の見学時には,ひまわりの苗を配布し,子供たちが緑を育てることに興味を持つきっかけ作りをしています。

公園広場の様子

 また,取組に共感された地元の方から分けていただいた園芸種のフジバカマを植栽したところ,アサギマダラが多数飛来する様子が確認されました。海外との渡りをする蝶アサギマダラは,フジバカマの蜜を好み,飛来します。多いときには,一日に20頭も飛来しました。

フジバカマ(園芸種)に集まるアサギマダラ(10月上旬)

雨庭を活用したフジバカマ・フタバアオイの再生プロジェクト

 京都市生物多様性プランの実現に向け,KES環境機構や京都市都市緑化協会などの関係団体が協力し,KESエコロジカルネットワークという名称のプロジェクトとして様々な取組が進められています。その中で,希少になりつつある在来の草花である,フタバアオイやフジバカマなどを保全・再生する取組(※)がスタートし,北部クリーンセンターでも,平成27年度からこの取組に参加し,フタバアオイやフジバカマの苗をもらい受け,里親になって育成・再生に取り組むことにしました。これらの植物は,シカの食害などによる環境変化から激減したもので,とりわけフジバカマは,環境省の絶滅危惧種に指定され,京都府のレッドデータブックでも絶滅寸前種に選定されています。

 これらの植物は,育成に適した場所にいくつかの条件がありますが,工場棟の4階中庭は,降った雨を一時的に貯留する構造の雨庭(あめにわ)になっており,また,既存の樹木による木陰も存在することから,フジバカマやフタバアオイの育成に適しています。このことから,4階中庭の雨庭を希少種の植物育成場所として活用することとし,職員で育成ゾーンを整備しました。

4階中庭の雨庭構造
フジバカマの植栽(平成27年7月13日)
フタバアオイの植栽(平成27年7月29日)

 成長した原生種のフジバカマは,9月下旬に花が開きだし,9月下旬から10月中旬にかけては,アサギマダラが飛来しました。

フジバカマ(原生種)に飛来するアサギマダラ

 また,平成28年5月7日に,葵祭の舞台・上賀茂神社で,祭りの象徴であるフタバアオイの奉納式があり,北部クリーンセンターで育成したフタバアオイの一部を,境内の畑に里帰りさせました。

奉納式会場にて
修祓の儀

 さらに,取組の内容をパネルにして,見学者通路に設置し,見学者に広く紹介しています。

見学者通路に設置したパネル(A1サイズ)

 ※この取組は,京都市生物多様性プランにおける「京の生きもの・文化協働再生プロジェクト認定制度」において,第3号認定(推進者:特定非営利活動法人KES環境機構)を受けています。

改善の効果

 この様に,活動を改善することにより,次のような効果が生まれると考えられます。

●クリーンセンターの公園広場を環境テーマ広場へと整備することで,子供たちが自然に興味を持つきっかけとなる学習フィールドとして活用できる。

●取組を通して,見学者や地元の皆様などの多くの方に,京都市が推進する生物多様性の保全に向けた取組への理解や,クリーンセンターのイメージアップにつながる。

 

今後の展望(平成28年度の取組)

●北部クリーンセンターの表玄関である公園広場やトンネル入口付近にフジバカマを植栽し,飛来したアサギマダラを地元の人に観覧していただきます。(平成28年3月28日植栽済み)

表玄関に整備したフジバカマゾーン

●平成27年度の春に試験的に育成した菜の花の種を,平成28年2月に蒔き,そこから発芽した苗を植栽して,菜の花エリアを拡大します。

●平成27年度にヒマワリの種が約2万個採れたので,引き続き見学者には種を持ち帰っていただき,また,アサガオや菜の花の種も準備します。

●施設内の湧水を活用し,自然に生きものが集まるゾーンの整備を,職員の手で進めており,北部クリーンセンター入口トンネルの脇から出る湧水の排水対策も兼ねて,湧水が流れ込んでいる外構の植栽部分を更地にし,生態系の復元をテーマにしたビオトープを作ります。ビオトープは湧水を利用し,絶滅危惧種の野生のメダカ(ニホンメダカ)が生息できる環境にまで整備し,今後は,ビオトープ周辺にフジバカマやキクタニギク等の希少植物を植栽する予定です。

整備中のビオトープ
ニホンメダカの放流
モリアオガエル

最後に

 北部クリーンセンターでは,本来業務はもちろんのこと,環境政策の大きな柱の一つであります自然共生社会,生物多様性保全を自ら率先,実行し,クリーンセンターの業務と融合した取組をしっかりと実践しています。最初は施設内緑化から始まった取組が,生物多様性の重要性を,職員一人一人が「自分ごと」「みんなごと」として捉えていった結果,本市の伝統文化を育んできた植物を絶滅の危機から救う取組に展開してきました。

 この「職員力」の結集ともいえる取組は,地域の皆さんや小学生,また施設見学に来られた皆様など,多くの方々に生物多様性の保全,再生の大切さをしていただくきかっけとなります。また,これまで,ともすれば迷惑施設として思われがちのクリーンセンターのイメージを大きく転換・一新させ,環境学習や,地域コミュニティの拠点としての,新たなステージへの出発点となるものであります。

 今後も,進行形で取り組んでいき,市民の皆様にも実感しやすい生物多様性の保全に,頑張ってまいります。

<現在の様子(4階雨庭)>

2.5mに成長したフジバカマ
先端のつぼみ

オミナエシ

ヒオウギ

キクタニギク
フタバアオイ

<現在の様子(表玄関のフジバカマゾーン)>

順調に成長しているフジバカマ