京生き物ミュージアム

大原のオオムラサキと保護活動

 平成28(2016)年9月26日
 大原のオオムラサキを守る会

はじめに

 左京区大原地域では,地域の活動組織「大原里づくりトライアングル」と京都市立の小中一貫教育校「京都大原学院」が連携して,国蝶「オオムラサキ」の保護活動を長年行っています。その活動の一環として,オオムラサキを大空に放つ放蝶会及びオオムラサキ保護施設等の観察会を開催しています。このオオムラサキの観察会・放蝶会は,今年で10年目を迎えました。(平成28年6月25日開催)

 それでは,「大原のオオムラサキを守る会」が主体となって取り組んでいるオオムラサキの保護活動について紹介します。

オオムラサキって,どんなチョウ?

 オオムラサキは紫色が美しい大型の蝶です。日本に広く分布していて,「国蝶」にも指定されていますが,残念なことには里山の衰退に伴って個体数が著しく減少して,国や京都府から準絶滅危惧種に指定されています。

飼育網室で羽化したオオムラサキのオス

 

保護活動はこうして始まった!

 平成17年7月のことです。京都市立大原小学校(現小中一貫教育校京都大原学院)5年生児童が,路上でオオムラサキのはねの破片を拾って学校へ持ってきました。この時初めて,今の保護活動に携わる人たちは,大原にオオムラサキが生息している可能性を知ったのです。早速調査が行われて,同じ年の冬に越冬幼虫が発見され,翌年の7月にはクヌギの樹液に飛来した成虫が見つかったのです。それと同時に,大原のオオムラサキの生息数はとても少なく,このまま放置すれば絶滅が心配なことも分かってきて,保護活動が進められていったのです。

保護活動はこの破片から始まった

 

ドングリ園の完成と今

 平成18年に生息環境調査が行われて,大原には成虫が樹液を吸える樹木がとても少ないことが分かってきました。そこで行われたのは,大原小学校の全校児童によるクヌギのドングリの種まきでした。一人ずつがポットに植えた種は元気に育って,平成22年には大原学院の全児童生徒90名が1本ずつ地面に植えていき,ドングリ園ができ上がったのです。

 植えられた苗は今では見上げるような高さになり,花が咲いてドングリができ,平成27年には樹液に待望のオオムラサキが飛来しました。

ドングリ園とオオムラサキ観察会
ドングリ園にやってきたオオムラサキ

飼育網室の完成と今

 クヌギの種まきと同じ年,飼育網室が完成して(現在の網室は二代目),今度は京都市立大原中学校(現京都大原学院)の全校生徒が野外からエノキの苗を採取して網室に植えるとともに,翌春には大原周辺で探し出した越冬幼虫を放しました。

 平成25年には累代飼育(世代をまたいで飼育すること)が成功して,今は1年を通じて飼育網室内でオオムラサキの色々なステージを観察することができるようになりました。

飼育網室でエノキの葉を食べる6齢幼虫
枯葉色に変色した4齢幼虫(越冬直前)

放蝶会と観察会

 オオムラサキを野外に還す放蝶会が開始されたのは平成19年でした。この頃はまだ,野外で探し出した越冬幼虫を,翌年飼育網室で大きくしてから放すだけだったので,放蝶数はわずかだったのですが,累代飼育に成功してからは放蝶数は徐々に増えていきました。

 平成22年からは成虫を放すだけでなく,オオムラサキが育つ大原の環境も見てもらいたいと,飼育網室⇒わずかに残っている雑木林⇒ドングリ園⇒大原里の駅と巡って,観察ノートを完成していく形態になりました。

飼育網室とオオムラサキ観察会
大原里の駅でのオオムラサキ放蝶会

 

これからの大原のオオムラサキと保護活動

越冬幼虫の保護活動

 このオオムラサキの保護活動は,地元の皆さんで構成されている「大原里づくりトライアングル」の事業の一環として行われています。生産的事業と共に環境的事業を取り込んだ大原の取り組みは,オオムラサキの保護活動を含めて高く評価されていて,農水省のモデル地区にもなっています。

 保護活動を推進していくうえで,まだまだ解明しなければならない課題はたくさんありますが,大原でのオオムラサキの生活史が明らかになり,生息環境が整いつつある今,節目の10年目の観察会・放蝶会を迎えることができました。10年前の願いである,大原の自然豊かな環境の中をオオムラサキが飛び交い,民家の軒先にまでやって来て初夏を演出してくれることが,大原の里づくりの完成のひとつの現れではないかと思っています。